2019-06-12

湖畔の山荘 設計図集

建築家の中村好文氏による図面集「湖畔の山荘 設計図集」が届いた。

昨年末に奈良で行われた氏の独演会に参加した際にこの本の告知がされていて、
わくわく心待ちにしていました。

氏が夫婦のために設計した小屋〈湖畔の山荘〉の図面がまるっと納められた一冊。

図面集のはじまりは、施主からの一通の手紙から始まります。

初めて敷地を訪れたときのことや、
最終案に至るまでの7つの計画案を考え方の変遷とともに丁寧に紹介していて、
単なる図面集というよりも設計者の息づかいが感じるような本。

なんと言ってもオール手描きの図面を見てびっくり。
中村氏含め所員さんのうち3名は手描き派とのこと。

ちなみにこの写真はカバーを光に透かしたもの。
表紙の裏に、手描きの矩計図が印刷されています。

中村氏といえば設計作品もさることながら、
軽妙な語り口と愛嬌のあるスケッチもまた魅力的。
手描きのスケッチはいくつも書籍で拝見しましたが、
実施図はCADで作図されているとばかり思っていました。

図面集に納められているのはディティールだけで100枚を超すボリューム。

1/50の平面図、展開図とは別に、
1/15の部屋別詳細図や1/10の展開図もある。
描かれた図面の種類から、
なるほどーこういう風に検討しているのかと読み取れてとても参考になる。

手の側面で鉛筆を擦った跡が生々しく、いい意味でとても疲れる図面集でした。

私の場合、初めのスケッチから計画案までは手描きで進め、
たくさんの情報を描き込む実施設計はCADにバトンタッチ。
でも実は手描き図面に憧れを持っているのです。

文字でも絵でもなんでも鉛筆を持つことが好きで、
ロゴを考える時なんかは同じ文字をどれだけ描いても飽きない。
もしかして図面の手描きは性分にあってるんじゃないか?と思うことがある。

なにより、手のうごきからデザインを探るような感覚で最初から最後まで図面を描けたら、
自分らしい気配を纏った建築ができないか
と淡い期待を寄せている。

いまの自分の設計では、なにか一貫した構造や素材やディティールを使ったり、
デザインの流行を取り入れるというような手法はとらず、プロジェクトごとに一から悩んでいる。

大切にしたいことはつながっているけど、
それは見た目にわかりやすく現れるようなものではない

では、建築のなかににおう、自分らしさとは一体どんなものなんだろう。

そういえばイラストの仕事においても、毎回一から悩んでいる。
あえてタッチや雰囲気を固定させず、プロジェクトごとに方向性を決めている。

だから自分らしさみたいなものは伝わらないだろうと思っていたが、
意外と「らしい絵だね」という言葉をもらう。

建築は、私が鉛筆で書いた線をCAD化し、監督さんに渡し、職人さんたちが作るという、
何層にもなった作業の中で立ち上がる。
気持ちのよい空間のイメージ、大切にしている美しさの感覚、
そして基準となる身体感覚とは別の、もっと筆圧そのままの自分らしさが、
誰かの手に渡り層を重ねながらもうっすら生き残らないものかと思う

描いていて楽しい気持ちが、そのままなにか楽しそうな空間に育ったらいい。
そんなことを考えています。

 

 


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