2018-12-11

中村好文独演会「レスタウロの流儀」

奈良国立博物館で開催された、建築家・中村好文氏による独演会
「レスタウロの流儀」に参加してきました。
学生のときから憧れて続けている建築家のひとりで、
作品もさることながら、人柄やクライアントへの向き合い方、
ものづくりに近い設計者であるというスタンスに惹かれています。

レスタウロとは、イタリア語で改修の意。
「単なる改修以上に〈創造的な改修〉というニュアンスが含まれています」
という言葉から始まりました。

近年は改修の案件が多いそうで、
規模の大きなものから小さなものまで約7作品の紹介。
その中には吉村順三設計の別荘をリノベーションした休寛荘も。

中村氏といえば、魅力的なのがユーモラスな語り口。
印象深かったのが北海道のJIN HUTという小さなゲストハウスにまつわるエピソードで、
クライアントはパン職人で以前店舗の設計を受けた方。
この店舗が完成するまでの2人のやりとりをまとめた〈パン屋の手紙〉という本が出版されているのですが、
その印税をぴったり予算にあて、敷地内にある小屋をリノベーションしたという話。
この小屋はもともと施主がセルフビルドしたもので、
今回の改修にあたり、外壁の工事は事務所スタッフ総出で工事したそう。

「泊まるのはほとんど僕です」と語られる小屋は愛らしい家具のような建物。
「印税がまた入ることを当て込んで、エッグチェア(たしかそうだったような…)を買い足したので、
ぜひ〈パン屋の手紙〉のご購入を」と、また楽しげに語られるのでした。

このエピソードだけでたまらない魅力がありますが、
〈パン屋の手紙〉は建築に携わっていなくても、建築に興味なくても、
こういう仕事ぶりっていいなあと思える一冊だと思います。

レスタウロというキーワードは、自分にとってぴったりなテーマ。
振り返ってみれば今年一年、古いものをどう扱い、
新しいものをどう位置づけるのかということを考え続けてきた気がします。
中村氏の改修の解は自分が持っていたものとはまた違っていて、
まだまだ考え続けることができそうだと刺激をもらった2時間でした。

2015年に竹中大工道具館で開催された
中村好文×横山浩司・奥田忠彦・金澤知之 建築家×家具職人 コラボレーション展」。
この記念イベントとして企画されたミルキングストゥール制作のワークショップでは、
中村氏も本職の木工作家と並び、器用に鉋を扱い講師として参加しておられました。

写真はこのとき制作したミルキングストゥール。
シェーカー教徒が制作し使っていた、牛の乳搾り用の3脚の小さな椅子です。
これを丸1日かけて作るという本気度の高い贅沢なワークショップでした。

木工を学んだ経歴を持ち、建築と同時に家具のデザインも手がける氏の仕事ぶりを感じ、
デザインすることとつくることが近いのは魅力だなあと、
今でも印象に残っています。
 

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新関さんの作品集「NIIZEKI STUDIO 建築設計図集」が届きました。


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